BOOK LIFE

本・読書の話題をお届け

古本探し通販サイト「Amazon」「楽天ブックス」「ネットオフ」で比較

 私と同じような人は少なくないかと思いますが、2020年4月から仕事が基本的に在宅勤務になりました。ちなみに新型コロナウイルスの感染拡大が終息するまでの対処ではなく、会社の恒久的な制度としてテレワークが基本になりました。基本は自宅で仕事をしてもらい、自宅では仕事ができないという人はオフィスに行って仕事をしていいですよ、というスタイルです。

 通勤していた頃は通勤途中の電車や仕事終わりのカフェの時間などを利用して読書をしていました。休日もほとんどを読書に使っていました。在宅勤務になれば通勤がなくなり好きな読書の時間を増やせる、と思ったのですが、気づけば通勤していた頃よりも読書量が減ってしまっています。おそらく在宅勤務だと、この時間は読書をしよう、というリズムがなくなってしまうためです。うまく時間を区切って読書の時間を作っていこうと思っています。

本探しに適した通販サイト

 それはさておき、通勤しないと本屋に寄る機会も減ってしまいます。ジュンク堂書店くまざわ書店などによく立ち寄っていましたが、最近はネット通販で済ませてしまうことが多くなりました。古本を購入するときは神保町にもよく通っていましたが、最近はレアな本でもネットで出回っていることが少なくないため、むしろ本探しはネットの方が圧倒的にうまくいきます。もちろん本屋さんの店舗に立ち寄れば、探していた本以外にも面白い本が見つかることがあるので、本屋さんへも定期的に通いたいと思っています。

 さて、今回気になったのはネットで本を探すのに適したサイトはどこか、という点です。おそらく大差はないと思います。が、時に大きな差が出ることがあります。

 古本を購入するときは、出展数の多さから「Amazon」で探すことが通常なのですが、話題の本の場合は在庫切れになっていたり、高値がついていたりするケースもあります。そういう時は「楽天ブックス」や「ネットオフ」で探すこともあります。

在庫数はAmazon、値段はケースバイケース

 やはり気になるのは値段ですね、私が敬愛する作家、ガルシア・マルケスの不朽の名作『百年の孤独』で比べてみましょう。2020年9月13日現在、Amazonの最安値は2000円、中古品は33点出品されています。では楽天ブックスはどうでしょう。中古品は2点、最安値は2360円です。ネットオフでは在庫が2点、最安値は1980円です。やはり在庫数ではAmazonが圧倒的に多いですね。値段はネットオフで最も安い古本を購入できるという結果ですが、もちろんタイトルによって状況は異なるでしょう。

 別のタイトルでも探してみましょう。現代アメリカ文学を代表する作家、ポール・オースターの長編小説『ムーン・パレス』(新潮文庫版)です。2020年9月13日現在、Amazonには中古本の在庫が37点、最安値は276円です。楽天ブックスは中古本の在庫が4点、最安値は400円です。ネットオフは在庫が1点、価格は495円でした。ムーン・パレスの場合はネットオフが最も高くなりました。

 もちろん本の状態によって価格設定は異なりますから、あまりこうして古本の値段を比較するのは意味がないですね。傾向として在庫数はAmazonが圧倒的に多い、値段はタイトルや本の状態によってばらばら、ということになるでしょうか。

話題本は複数の通販サイトをチェック

 古本屋をめぐるときもそうですが、調達先は複数持っていた方がいいですね。ネット通販でも同じです。特に本が一時的に話題になっているときなどはその必要性が高まります。例えばNHKが「100分で名著」という番組を放送していますね。これで紹介されたときなどは状況が一気に変わります。有名なタイトルであっても在庫が少なくなり、場合によっては通常よりも数倍の値段、新品を購入するよりも高値になっていることも珍しくありません。これはまずAmazonでその傾向が表れ、次いで楽天ブックスでも同様のことが起こります。順番ではAmazonの方が先です。

 なので、Amazonでとんでもない値段がついているときは、楽天ブックスやネットオフなども同時にチェックしてみることをお勧めします。

本好きのオーディオブックの使い方

本好きにとってのオーディオブック

 電子書籍での読書も一般化してきた今、紙の本を持ち歩いて電車での移動中や何かの待ち時間に読む、という人は減少してきているかもしれません。私はといえば紙の本が好きで、自宅には1000冊ほどの本があります。ただ紙の本しか読まないというわけでもありません。どうしても電子媒体の画面でテキストを読み進める電子書籍には慣れることができないのですが、耳で聴くのであれば話は別です。

 耳で本の朗読を聴く、いわゆるオーディオブックは読書とはちょっと用途が異なります。私にとってのオーディオブックの良さは、移動しながら本の内容を聴ける点にあります。

歩きながらの読書はオーディオブックだけ

 田舎道のように人とあまりすれ違わない場所であれば歩きながら紙の本をめくることも可能ですが、さすがに電車のホームを歩きながら、あるいは自転車で駅まで向かっている最中に読むのは危険です。その点、オーディオブックは歩きながらでも自転車をこぎながらでも満員電車にゆられながらでも聴くことができます。紙の本に加えてさらに読書の時間を増やしたい、という時にはもってこいのツールなのです。

読書が苦手な人でもラジオ感覚で読書

 紙の本を読むのが苦手な人でも読書ができる点はオーディオブックのまた違う良さです。自分で活字を読み進めなくても、いい声のナレーターさんによる朗読が勝手に進んでいきますから、ラジオのように効いているだけでいいのです。オーディオブックのアプリは聴く速さを調整できますから、ゆっくり聴きたい、反対に速読のようにして倍速で聴きたい、という要望にも応えてくれます。

物理的に所有する必要がない

 私の場合、いろいろなジャンルの本を読みたいとは思うのですが、自宅の本棚に呼んだすべての本を置いておきたいとは思いません。本棚に置いておきたいのは、時間が経ってからまたもう一度読むかもしれない本、何かの機会に参照するかもしれない本、内容や作家が好きでコレクション的な感じで常に所有しておきたい本、などだけです。それ以外の本は読み終わってもう持っている必要がなくなれば、古本屋に行って売ってしまいます。ある意味、処分するときは少し無駄なことをしているなあと感じる事もあります。このケースでもオーディオブックが非常に役立ちます。オーディオブックはデータをダウンロードして聴いて、必要がなくなればデータを削除すれば済みます。ですので最近は、はじめから本棚に入れることはないと思っている本は、できるだけオーディオブックで購入して読むようにしています。

オーディオブックに適したジャンル

 もちろんオーディオブックがいいか紙の本がいいかは本のジャンルによっても異なります。移動しながらオーディオブックを聴いていると、どうしても聴き逃してしまう部分も出てきます。長編小説を読んでいて途中で空白がでてしまうと、流れを失ってその先が全く面白くなくなってしまいます。ですがハウツー本や何かの解説本などであれば、そもそも最初から順番に章を読み進める必要がない本が少なくありません。そうしたジャンルの本にはオーディオブックが非常に適しています。

 小説がオーディオブックに向いていないという意味ではありません。短編小説であれば10分や20分の朗読で終わってしまうこともありますから、私はよく空いた時間を埋められそうな短編小説を選んで聴いています。紙の本で買うとなると、目的とする短編小説以外の短編小説も本のコンテンツになっていることがほとんどですが、データであれば欲しいコンテンツだけを入手できるという利点もあります。

聴き放題がうれしい「audiobook.jp」

 ちなみに私が利用しているのはオトバンクが提供する「audiobook.jp」です。個別のオーディオブックを購入することもできますし、月額の聞き放題を契約して好きな本を好きな時に聴くということもできます。聞き放題のコンテンツは結構充実しているので、私は聴き放題を利用しつつ、新刊本など聴き放題のコンテンツには含まれていないけれども読んでおきたい本があるときは、別途個別に購入して聴くようにしています。

オーディオブック聴き放題なら - audiobook.jp

 音楽やラジオを聴きながら通勤したり寝る前にリラックスしたりするのもいいですが、聴きながら新しいことを学んだり短編小説を聴いて楽しむのも悪くないですよ。



一度は読みたい谷崎潤一郎のお薦め小説「4選」

谷崎潤一郎のお薦め小説4選

 日本文学を語る上で谷崎潤一郎の存在を忘れてはいけません。明治から昭和にかけて数多くの作品を残した日本の文壇を代表する作家です。耽美的、流麗な語り口などが谷崎の特徴であると言えますが、書かれた時代によって作風が大きく異なることも谷崎作品を楽しむポイントです。代表的な4つの作品を挙げてみました。

春琴抄

 春琴抄(しゅんきんしょう)は盲目の三味線奏者、春琴と佐助の物語です。

 読み始めてまず気づくのはその独特の文体です。流麗な文と整えられた語調によって谷崎作品らしさがありつつも、他の作品とは明確に異なる文体の特徴があります。句点がほぼないため、最初は読みにくさを感じる読者もいるかもしれません。しかし読み進めて慣れてくれば、息をつかず一気に物語の最後まで読むことができます。谷崎作品としては長くはありません。最初から最後まで同じリズム、同じ勢いで読むという点で非常に効果的な文体であると感じます。

 もちろんお薦めする理由は独特の文体だけではありません。失明した春琴が音楽を志すこと、それを支える佐助、そして衝撃の結末。涙なしに読む方が難しいといっても過言ではありません。是非一度は読んでみてほしい作品です。

春琴抄改版 (新潮文庫) [ 谷崎潤一郎 ]


刺青

 谷崎の代表的な短編小説である刺青(しせい)です。

 谷崎作品にはほとんどいつも美しい女性が登場します。谷崎が女性を物語の中で描くことで何を表現しようとしていたのか、それが分かる特徴的な作品と言えます。

 話の中心になるのは腕利きの刺青師である清吉と、清吉が刺青を掘る美しい女。彼の年来の宿願は、光輝ある美女の肌を得て、それへ己れの魂を刺りこむことであった――清吉は普通の美しさ、肌の綺麗さでは満足しませんでした。そしてある時、深川で見つけた真っ白な素足、複雑な表情を持つ娘。これが清吉の気を満足させる女になります。

 浮世絵師でもあった清吉の、白く美しい肌に刺青を掘りつけたいという執念。そしてそれを望む女。谷崎の美的感覚を存分に味わえる作品です。

刺青/秘密改版 (新潮文庫) [ 谷崎潤一郎 ]

蓼食う虫

 春琴抄や刺青とは少し趣の異なる長編小説です。春琴抄や刺青には執拗なまでに女性の美にこだわる耽美的な特徴があり、棘のある美しさ、ある意味では危うさのある美を感じます。それに対して、蓼食う虫の話の中心は関係が冷めた夫婦の話。少し落ち着いて谷崎文学の世界に浸ることができます。

 蓼食う虫は、谷崎と同時期に作家として活動していた佐藤春夫の妻を二人目の妻として受け入れた、谷崎の実生活を基にした部分があるとも考えられています。話の中心となる妻は夫との夫婦関係を維持しつつ、恋人と交際しています。

 気持ちの離れた夫婦の成り行き、心の動きを楽しみつつ、夫婦の生活として描かれる情景からこの作品が書かれた1920代後半の時代を垣間見ることもできます。小説全体は14章の構成になっていますので、小分けにして少しずつ読み進めるのもいいかもしれません。

蓼喰う虫改版 (新潮文庫) [ 谷崎潤一郎 ]

卍(まんじ)

 美術学校に通う園子と、園子と愛欲の関係にある女性や男性の人間関係が中心に話が展開します。この作品も文体が特徴的です。一貫して園子の関西弁による独白の形式を採用しています。

 谷崎の生まれは東京ですが、30代後半に関西(兵庫県)に移住しています。関西の文化に魅せられた谷崎の変化が文体に色濃く反映された作品です。標準語を基本とした小説を読むのとは異なり、関西弁は活字で読み進めても独特のイントネーションが頭の中に残ります。その流麗さが、愛欲に満ちた物語の内容を一層際立たせています。

 園子の関西弁の口調からは、園子の人柄も伝わってきて、少し面白おかしく読むこともできるお薦めの作品です。

卍(まんじ)/谷崎潤一郎【合計3000円以上で送料無料】

お薦めのディストピア小説『すばらしい新世界』オルダス・ハクスリー

ディストピア小説の定番

楽天のレビュー(すばらしい新世界)

 オルダス・ハクスリーの代表作『すばらしい新世界』(Brave New World)」です。SF(Sience Fiction:科学小説)好きの読者であれば、知っている方も少なくないでしょう。ジョージ・オーウェルGeorge Orwell)の有名なディストピア小説ユートピア=理想郷の反対、暗黒の世界を描く小説)『一九八四年』ほど知られているとは言いませんが、ディストピア小説として真っ先に上がるタイトルの一つです。

 1932年に出版されたにもかかわらず、いま読んでもまったく古い感じはしません。「九年戦争」と呼ぶ、従来の世界を破壊した戦争の後、人類の理想を追求するために創設された世界国家が形成する社会が舞台です。世界国家による社会システムは、いわば人類のユートピアを実現することが表立った目的です。

 この社会システムの中の人間は、無機質な器具が並ぶ“人工受精室”の中で生み出されます。1個の受精卵を最大96個に分岐させ、同じ遺伝子を持つ人間を大量に生み出します。これも、いわばユートピアを実現するために人類が成し遂げた技術的な進歩ということになります。

 「親」という言葉は存在しますが、こうして生み出された子供は「親」を具体的なイメージで想像することはできません。子供たちを育てる父親や母親は物理的に存在せず、社会システムがその役割を担います。過去に人類は父親と母親がわが子を育てていたーーこの歴史的事実としてしか本来の意味の親を知ることはできないのです。

 人工受精室の中で生まれた子供たちは、同じ教育システムの中で同じ教育を受け、同じ価値観の中で大人になります。文化や宗教の違いによる価値観や常識の食い違いはこうした中ではほとんど生まれません。憎しみ合うことなく、苦しみを少しでも和らげてみんなが幸福に生きることがこの世界の理想です。

 みんなはみんなのものーー特定の相手と交際することはおかしいことであり、複数の相手を愛し、それを互いに認めることがよしとされます。同じ価値観を醸成し、みんなが安定的な生活を維持することがこの世界の理想なのです。

 しかし、人工的に生み出された人間だからといって、現在の私たちのような人間と生物学的に異なるわけではありません。正しいとされる振る舞いや道徳を教え込まれたとしても、疑念が生じることがあります。ユートピアを実現するためには排除すべきものがありました。一つには社会システムから外れる個人の疑念、常識からの逸脱であり、一つにはユートピアの社会システムに組み込むことのできなかった、いわばあるがままの人間の社会です。そうした分断、2極化した世界の境界に出会うことで、この物語は動きます。

 AI(人工知能)による意思決定が進む今、人間の思考の無駄、間違い、不安定性などは機械的な正しさに取って代わられようとしています。現代の世界はどこへ向かっているのか、人間の社会はどうあるべきなのか、それを考える上でとても面白い気付きを与えてくれます。

すばらしい新世界〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫) [ オルダス・ハクスリー ]