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うまく働く方法――『私の生活技術』より

 本棚の中に埋もれていたアンドレ・モーロワ著『私の生活技術』という本を見つけました。いつ読んだのかも覚えていないしどこで購入したのかも覚えていませんが、「またいつか読み直そう」と感じたことはかすかに覚えています。

私の生活技術 (土曜文庫)

私の生活技術 (土曜文庫)

 本のタイトルからも何となく分かる通り、人生に関する指南書のようなものです。構成は大きく以下のように分かれています。

  • 考える技術
  • 愛する技術
  • 働く技術
  • 人を指揮する技術
  • 年をとる技術

 巷には 「人とのうまい付き合い方」や「出世する人しない人」のような、生活や仕事をする上でのコツを紹介する本があふれています。ただそのほとんどは小手先のテクニックに焦点を当てていて、あまり読む気になりません。そういう話を参考にしすぎると、また別のテクニックがあればそっちを試してまたこっちを試してと繰り返し、結局は何が本当に必要なことなのか分からなくなってしまいます。

 あまり表面的なことで右往左往せずに軸となる考え方を一本持っていた方が、ぶれずに毎日を過ごすことができます。ただ、あまりに哲学的になりすぎると日常的な生活からかけ離れてしまいます。ともすれば社会生活を人並みに送ること自体がどうでもよくなってしまう懸念もあります。

 と、ここで本の話に戻りましょう。私の生活技術には「まったくその通りだ」「そうしてみよう」と思うことが真面目に書かれています。ただし、まったくその通りだと思うということはある意味では正論を突いているということでもあります。「それは分かっているけど、そううまくはいかないんだよなぁ」と感じるかもしれません。

 例えば「働く技術」の章から少し紹介しましょう。

うまく働く方法
一.いくつかの可能な仕事のうちから、一つを選択すること。――一人の人間の肉体と頭脳の力は、ごく限られている。あらゆることに手を付けたがる人は、決して何ごともなすことはできない。世にあまりにも多く見かけることであるが、いったい自分が何に向いているのかがはっきりしない人が、「私は大音楽家になれるかもしれない」といったかと思うと、「商売をしたらうまくいくかもしれぬ」といいだし、またつぎには「政界に入ったらきっと成功するだろう」といったりする。ちかってもいいが、そういう人はせいぜい音楽愛好家ぐらいにしかなれない。実業を始めたら破産するし、政界では人に蹴落とされる。

 その道で名の通ったプロフェッショナルがテレビをはじめとしたマスメディアで紹介されることがありますね。そういう人たちに共通しているのは、その道一筋何十年と、長年一つのことに打ち込んでいる点です。2年や3年、5年程度で神のように扱われる立場まで上り詰める人はほとんどいません。長年の間にいいことも悪いこともあり、その中でも脇道には大きくそれずに一つのことに執着してきたからこそ、段々に次のステップへと進む方法を見つけてこれたのだと思います。もちろん、ただ一つのことを長年続ければいいというわけではないでしょう。同じことを飽きずにやり続ける継続力はまずこの場合に必要なことと思われますが、それだけではただぼんやりと毎日が過ぎてしまうだけかもしれません。モーロワ氏はこうも書いています。

ナポレオンは、戦術の要はある一点に最大の力を集めることにある、と教えている。人生の戦術もまた、攻撃点を一つ選び、そこに力を集中することにある。

 私は30代半ばを過ぎましたが、もうこの年齢になると自分の向き不向きというのは完全に見えています。20代ではまだあまり明確には分かっていなかったかもしれません。もちろん10代や20代で自分が力を集中すべきものに気付く人もいるでしょう。そういう人はある意味では幸運といってもいいかもしれません。

 何かを成し遂げたいと思うなら、進む道を選んだ上で徹底してそこに自分のエネルギーを注ぐべき、ということですね。やはり書かれていたのは当たり前と言えば当たり前のことですね。こういうことを真面目に考えて本にしたためたということも一方では興味深いです。読み物としても面白いですから、また別の機会にこの本の中から別の話をご紹介したいと思います。

私の生活技術 (土曜文庫) [ アンドレ・モーロア ]


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