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一度は読みたい谷崎潤一郎のお薦め小説「4選」

谷崎潤一郎のお薦め小説4選

 日本文学を語る上で谷崎潤一郎の存在を忘れてはいけません。明治から昭和にかけて数多くの作品を残した日本の文壇を代表する作家です。耽美的、流麗な語り口などが谷崎の特徴であると言えますが、書かれた時代によって作風が大きく異なることも谷崎作品を楽しむポイントです。代表的な4つの作品を挙げてみました。

春琴抄

 春琴抄(しゅんきんしょう)は盲目の三味線奏者、春琴と佐助の物語です。

 読み始めてまず気づくのはその独特の文体です。流麗な文と整えられた語調によって谷崎作品らしさがありつつも、他の作品とは明確に異なる文体の特徴があります。句点がほぼないため、最初は読みにくさを感じる読者もいるかもしれません。しかし読み進めて慣れてくれば、息をつかず一気に物語の最後まで読むことができます。谷崎作品としては長くはありません。最初から最後まで同じリズム、同じ勢いで読むという点で非常に効果的な文体であると感じます。

 もちろんお薦めする理由は独特の文体だけではありません。失明した春琴が音楽を志すこと、それを支える佐助、そして衝撃の結末。涙なしに読む方が難しいといっても過言ではありません。是非一度は読んでみてほしい作品です。

春琴抄改版 (新潮文庫) [ 谷崎潤一郎 ]


刺青

 谷崎の代表的な短編小説である刺青(しせい)です。

 谷崎作品にはほとんどいつも美しい女性が登場します。谷崎が女性を物語の中で描くことで何を表現しようとしていたのか、それが分かる特徴的な作品と言えます。

 話の中心になるのは腕利きの刺青師である清吉と、清吉が刺青を掘る美しい女。彼の年来の宿願は、光輝ある美女の肌を得て、それへ己れの魂を刺りこむことであった――清吉は普通の美しさ、肌の綺麗さでは満足しませんでした。そしてある時、深川で見つけた真っ白な素足、複雑な表情を持つ娘。これが清吉の気を満足させる女になります。

 浮世絵師でもあった清吉の、白く美しい肌に刺青を掘りつけたいという執念。そしてそれを望む女。谷崎の美的感覚を存分に味わえる作品です。

刺青/秘密改版 (新潮文庫) [ 谷崎潤一郎 ]

蓼食う虫

 春琴抄や刺青とは少し趣の異なる長編小説です。春琴抄や刺青には執拗なまでに女性の美にこだわる耽美的な特徴があり、棘のある美しさ、ある意味では危うさのある美を感じます。それに対して、蓼食う虫の話の中心は関係が冷めた夫婦の話。少し落ち着いて谷崎文学の世界に浸ることができます。

 蓼食う虫は、谷崎と同時期に作家として活動していた佐藤春夫の妻を二人目の妻として受け入れた、谷崎の実生活を基にした部分があるとも考えられています。話の中心となる妻は夫との夫婦関係を維持しつつ、恋人と交際しています。

 気持ちの離れた夫婦の成り行き、心の動きを楽しみつつ、夫婦の生活として描かれる情景からこの作品が書かれた1920代後半の時代を垣間見ることもできます。小説全体は14章の構成になっていますので、小分けにして少しずつ読み進めるのもいいかもしれません。

蓼喰う虫改版 (新潮文庫) [ 谷崎潤一郎 ]

卍(まんじ)

 美術学校に通う園子と、園子と愛欲の関係にある女性や男性の人間関係が中心に話が展開します。この作品も文体が特徴的です。一貫して園子の関西弁による独白の形式を採用しています。

 谷崎の生まれは東京ですが、30代後半に関西(兵庫県)に移住しています。関西の文化に魅せられた谷崎の変化が文体に色濃く反映された作品です。標準語を基本とした小説を読むのとは異なり、関西弁は活字で読み進めても独特のイントネーションが頭の中に残ります。その流麗さが、愛欲に満ちた物語の内容を一層際立たせています。

 園子の関西弁の口調からは、園子の人柄も伝わってきて、少し面白おかしく読むこともできるお薦めの作品です。

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